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『 真価と進化 』

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2025.07.02号 VOL.290
看板事業撤退の決め手

こんにちは。株式会社シンカ代表の田中です。

パナソニックHDは、2027年3月期までにグループ全体の従業員数の
約5%に相当する国内外1万人規模の人員を削減すると発表しました。

かつての花形だったテレビ事業も今や「課題事業」と判定されており、
事業売却の可能性も含めて構造改革を進めているようです。

楠見CEOの発言では、「センチメンタルなところもあるが、
テレビ事業を売却する覚悟はある」のこと。

このニュースを見て、私自身がかつて経験した看板事業撤退を思い出しました。
事業規模はゾウとミジンコほどの差がありますが、葛藤は共通するものがあるはずです。
今回は、弊社の看板事業撤退の決断の体験談について、ご紹介させていただきます。

それでは、『真価と進化 2025.7.2号』、最後までお付き合いください。


看板事業撤退の決め手


 弊社は10年前に、看板事業(※主力事業ではありません)であった
独自の採用管理クラウドサービスからの撤退を決断し、
当時バチバチのライバルだった競合企業の製品を取り扱うことにしました。

 ピーク時には1億5,000万円ほどあった看板事業の売上は、
リーマンショックを境に顧客の需要が減退し、さらに大手競合企業が体力に任せて
価格攻勢をかけてきて、単価も下落し、ついに約8,000万円まで激減しました。

 ところが、このクラウドを維持するためのシステム改修に2,000万円、
インフラの保守運用コストが6,000万円かかっており、
「看板事業なのに利益はゼロ」の状態でした。

 それどころか、このシステムを維持するための人員を要し、
顧客からの利用方法の問合せ対応の人員も何人も必要で、
人件費を加味すると、大赤字なのは明らかでした。

 この状態では、競合との機能開発競争に投じる資金も捻出できず、
また、圧倒的な差別化をもたらす機能面のアイディアも社内から生まれず、
もう一度競争優位性を取り戻す道も見い出せませんでした。

 しかし、この採用管理クラウドは、当時弊社の「主力事業」である
採用業務アウトソーシングをご契約いただく「フック商材」になっていると
社内では考えられており、「看板事業を撤退すれば、私達の仕事が無くなる」
という空気が流れていて、社員の多くは、事業の収支や実態を十分に理解していませんでした。

 私は社員に看板事業の実態を何度も説明し、どの競合他社のサービスに
乗り換えるのがいいかを話し合いました。
各人からそれぞれの意見は出たものの、驚くことに社員の本心は
「使いやすければ、どこでもいい」という答えでした。

 つまり、自分たちの主力事業を採用業務アウトソーシングと捉えていて、
採用管理クラウドは「自分たちが使うもの」であって、
「売上をあげるサービス」だと心の底では思っていないのでした。

 それを受けて、私は看板事業撤退を当時の社長に提言し、了承いただきました。

 そして、ついに各お客様に個別訪問して
「実は、看板事業を撤退することにしまして、他社サービスを取り扱うことに…」
と契約解除覚悟でご説明して回りました。

 すると、お客様から驚く反応が。

「わかりました。ところで、○○さんは、
引き続き当社をご担当いただけるのでしょうか?」

 お客様は、弊社からクラウドの「機能」を買っているのではなく、
弊社社員の「人」に対して対価をお支払いいただいているのだと
事業の本質を改めて認識させられました。

 莫大なインフラ固定費から解放された弊社は、
その後柔軟に経営ができるようになり、様々なチャレンジができています。

 本質的に、お客様は何に価値を感じて対価を支払っているのか?
社員は何を誇りに働いているのか?よーく理解することが大切です。

 実は儲かっていない看板事業の衰退に遭遇している経営者の皆様、
社員と顧客に答えが眠っています。ぜひ率直に聞いてみてください。
そこに、次の「進化」のヒントが眠っています。

編集後記

「始めるのは簡単だが、止めるのは難しい」とよく言われますが、
頭ではわかっていても、いざ自分で決断するとなると、
サンクコストが頭をよぎりました。

決断した後にも、頭ではこれで良かったと判断していても、
「おセンチ」な感情に何年も襲われ続けました。

また、周囲からも「シンカは堕ちた」とか揶揄されましたから、
恥を忍んで、会社と社員を守り、ビジョンに向かって邁進してきました。

経営者だって、赤い血が流れている、だたの人間ですからね。
どれだけ同じ想いをもって、悩んで、苦労してくれる仲間がいるか。
そして、社外にも支えてくれる協力者がいるかが、とっても大切です。


それでは、次回もお楽しみに!

田中 裕也