2024.9.11号 VOL.249
クサい飯では満たせません
こんにちは。株式会社シンカの稲村と申します。
まだまだ暑い日が続いておりますが、新米のニュースが流れ、スーパーには
秋の食材が並ぶようになってきました。味覚の秋の到来ですね。
中秋の名月にちなんで、ファストフード店でも「月見〇〇」が出たり
四季がはっきりしている日本では、当たり前のように食に季節が反映されていますが、
意外な場所での食事でも季節感が大事にされている事を先日知りました。
皆さんにもご紹介したいと思います。
それでは、『真価と進化 2024.9.11号』、最後までお付き合いください。
クサい飯では満たせません
皆さんは、刑務所栄養士というお仕事をご存じでしょうか?
刑務所での食事のメニューを考えて、受刑者に調理指導をするお仕事です。
話題の書籍『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者と
クサくないメシ作ります』の筆者である黒柳桂子さんの仕事現場の様子が
先日 NHK『あさイチ』で紹介されていました。
刑務所の食事というと、よく「クサい飯」と言われるように、必要な栄養を
摂取する為だけの、味も素っ気もないようなメシを想像しておりましたが、
実際は違っていました。
黒柳さんは語ります。『税金で贅沢させるな』『受刑者なんてクサいメシでも
食わせておけ』そんな世間の声がある事は知っている。でも、食べ物を罰として
使って欲しくない。それは食べ物に対して失礼。『うまい=贅沢』ではないと思う。
食事は刑務所生活の中での最大の楽しみ。それを飼料のように毎日同じものにしてしまったら、
本当の意味での更生に繋がるのだろうかとも思うし、私の栄養士としての心が死にます。
提供する側がこう思うのですから、食べる側がうまいものを欲するのは当然ですね。
1人分の食費は1日3食で約540円。この範囲内の献立で調理していきます。
調理するのは受刑者です。ここでの経験から調理師免許を取得する受刑者もいるそうです。
資格を取って自信をつけ、出所後の就職にも役立ち、再犯防止に繋がる側面もあるのですね。
刑務所での調理作業場は炊場と呼ばれます。教場みたいですね。
炊場内でのルール(刃物は鍵付きで保管等)や、低予算で平等に作る為の工夫も
なるほどというものだったのですが、私が最も興味を持ったのは炊場の外の会議でした。
献立は、毎月1回刑務所内で開かれる会議で所長や幹部から承認を得なければなりません。
会議では、食材別などで献立の内容や栄養価の報告がされるのですが、幹部から
「おかかチーズ和え」ってどんなやつ?という質問が出ました。その質問の意図は
文字だけでは想像できなかったので、料理の彩りのことを確認したかったというものでした。
栄養士側でもなく、食べる側でもない刑務所の幹部が、献立の彩りを気にするとは!
そこには保安上の考えがありました。過去に暴動のような事例があったようで
受刑者にとって食に対しての楽しみは、やりがいにつながるという考えから
彩りもよく楽しんで食事できる献立を心掛けているのです。
献立の中で黒柳さんが一番大事にしているのはデザートという事にも驚きました。
七夕が近い日には、手作りのシールを容器に貼り、星のキラキラをイメージした
みかんと寒天を盛り合わせたデザートを提供していました。出たっ!季節感!
デザートに力を入れているのは、"心の栄養"だと思っているからとの事。
栄養学的には別になくてもいいものでも、たまにそれが登場することで
ガス抜きになる部分があると思うと。
楽しみでもあり、張り合いでもある食事は、美味しくなくてはいけない!と
語る黒柳さんは、刑務所栄養士としての誇りに満ちてカッコよかったです。
▼『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒柳 桂子 著/朝日新聞出版)
https://publications.asahi.com/product/24491.html/
編集後記
刑務所栄養士が取り上げられた前の日の『あさイチ』では、みんなの普段のご飯が
テーマでした。インスタ映えを狙ったものなどではない、リアルな日常のご飯。
食べ盛りの子供たちの為に量が一番という家庭もあれば、そんな子供たちが自立した後で
夫婦の分だけ。以前はできなかったキレイに盛り付ける時間が一番好きという方も。
夏は暑くて調理するのがしんどいから、お弁当とお惣菜を買って並べるだけという方や、
最近よく見かける完全栄養食ばかりを食べている若者もいました。この若者は
趣味や勉強など食事よりも他の事に時間と労力を使いたいという方でした。
私も、よくブレッドタイプの完全栄養食を食べるのですが、ほぼ毎食という事に驚きました。
カロパ、カロリーパフォーマンス(摂取カロリーあたりの栄養バランス)は確かに良いです。
一見、刑務所の食事とは逆のようなものもありますが、それぞれで無理なく
お腹と心が満たされていれば良いのですよね。日によっても違いますしね。
最近ちゃんと料理できてないなんて、そう気にしなくてもいいんだなと思いました。
それでは、次回もお楽しみに!
稲村 祥子