2024.5.8号 VOL.233
ジョブ型雇用も考えもの
こんにちは。株式会社シンカ代表の田中です。
4月26日、日本経済新聞は「同意なき配置転換、職種限定では違法 最高裁が初判断」
と題した記事を掲載しました。
柔軟な働き方へ向かう日本の労働市場において、
労働者の権利は守られるが、硬直化を招く判断がなされたのではないか、と私は感じました。
ジョブ型雇用があたかも良いことかのようにもてはやされていますが、
メリットとデメリット両面があるはずで、
今後の企業と従業員の関係性のあり方を改めて考えさせられる
重要なニュースではないかと思います。
それでは、『真価と進化 2024.5.8号』、最後までお付き合いください。
ジョブ型雇用も考えもの
裁判の概要を平易に要約すると、以下の通りです。
【使用者】
滋賀県の福祉施設
【労働者】
福祉用具などを改造する男性技師
【経緯】
・2001年頃技師として入職し、18年間勤務。
・福祉用具の改造業務の受注が減り、技師の業務を廃止する方針だった。
・退職によって総務課に欠員が生じていた。
・それらの状況を受けて、2019年に男性に対して総務課への配転を内示。
その際、事前の打診はしていない。
・男性は、配転命令は違法だとして、損害賠償などを求めて提訴。
【裁判所の判断】
一・二審:職種限定の合意はあったが、解雇を回避するための配転には
業務上の必要性があったとして、「適法」と判断
↓
最高裁:職種限定の合意がある場合、使用者には同意なしに配転を
命じる権限がないとして、「違法」と判断
これは、職種を限定して働きたい労働者を守る判断としては適切
だと私も思いますが、「同意が得られなかった場合」は配置転換を
命ずることはできず、やってもらう業務もないのに「技師」として
雇用し続けなければならないことになります。
事業継続が危ぶまれる状況など、やむを得ない理由がある場合は
解雇も可能だと思われますが、そうでない場合は解雇も容易ではありません。
総務に異動することを同意してもらうまで粘り強く交渉し続けるか、
交渉決裂して自己退職してもらうのを待つか、
必要もない技師っぽい仕事を作って与えるか、など対処しなければいけません。
ジョブ型雇用で募集すれば、人材を採用しやすくなります。
ただし、このようなケースでは企業も従業員も不毛な時間とお金を浪費します。
企業が本人の希望に反して、如何ようにも職種や勤務地を命じられるのは
企業と従業員の対等でポジティブな関係を構築するのには反してしまうと
思いますが、かといって、人手不足が今後ますます絶望的になっていく
世の中で、貴重な労働力を持て余すのはいかがなものかと私は思います。
今年度から、労働条件の明示ルールも改正され、新しく従業員を雇う際や、
契約更新をする際に、就業場所と業務内容の「変更の範囲」を
明示する義務が発生しました。これにより、従業員が希望しない勤務地や
業務に異動を命じた際のトラブルはますます増加すると考えられます。
この状況の先には、スポーツ選手のように、毎年契約更新を行う
契約型の雇用関係が待ち受けていると私は予想しています。
すると、企業は魅力的で納得いく条件を毎年提示する必要があり、
従業員は自分の希望を主張しても雇用し続けたいと思ってもらえる
パフォーマンスや働く姿勢を示し続ける必要が出てきます。
ある意味で、いい緊張感が生まれると同時に、交渉決裂した場合は
労働市場に人材が放出されますので、人手不足緩和に一役買うのでは
ないかと思います。ただし、「交渉弱者」を救済する仕組みは必要なはずです。
「解雇自由化」とまでいかなくても、「退職は悪」という無意識の
価値観を転換する時が来ているのではないかと私は思います。
(参照)日本経済新聞 4月26日記事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE141B40U4A410C2000000//
編集後記
弊社には、正社員と同じだけのリモートワーカーがいます。
優秀かつ働く意欲があり、当たり前のように戦力です。
それまで、就業規則は正社員用とパート用の2本に分かれていましたが、
今後様々な人の力を少しずつ借りられるよう垣根をなくそうと1本に統合し、
「フルタイムの社員」と「フルタイムではない社員」
という位置づけにしました。
その際に発見した、労働基準法の穴が・・・
突き詰めて考えて、その矛盾を発見し、その解決策を思いついた時は
超難問を解いた時のような快感を覚えました。
大きな社会の仕組みを無条件に信じるのではなく、
きちんと理解して、自分たちの頭で考えて、良い方向に変えていきましょう。
それでは、次回もお楽しみに!
田中 裕也