2023.9.20号 VOL.201
10年経っても色褪せないもの
こんにちは。株式会社シンカの稲村と申します。
早いもので9月も残すところあと10日ほど。テレビ業界は番組改編期で
多くのドラマが最終回を迎えています。
7月期のドラマで最も話題となったのは、おそらく先週末に最終回だった
TBSの『VIVANT』だったと思います。私も例に漏れずネットの考察合戦を見て
友人とあーだこーだ言いながら毎回楽しみに見ておりました。最終回の日はお赤飯を用意したり…。
この時代に地上波テレビドラマが活気づいた事は、根っからのテレビっ子の私にとっては
とても嬉しい事ですが、もうひとつ、私には外せないドラマが間もなく最終回を迎えます。
今日は、そのもうひとつの作品について語りたいと思います。
それでは、『 真価と進化 2023.9.20号』、最後までお付き合いいただけると幸いです。
10年経っても色褪せないもの
私が挙げたもうひとつの作品とは、NHKBSプレミアムとBS4Kで再放送されている
連続テレビ小説『あまちゃん』です。
2013年に放送され、「国民的ドラマ」と言われた能年玲奈(現・のん)主演の朝ドラです。
流行語大賞の年間大賞を受賞した「じぇじぇじぇ」や、「前髪クネ男」を覚えている方は
多いのではないでしょうか。
それが、10年前の作品なのに、関連ワードが連日トレンド入りするなど、
今春スタートの新作『らんまん』を上回るほどの盛り上がりが続いています。
なぜ、10年経った今でも、愛されているだけでなく、こんなにも話題になるのか?
私は2013年の放送時も楽しく視聴しており、宮藤官九郎さんの小ネタ満載の
朝ドラの常識を覆す脚本が、面白いと感じる要因の大部分だろうと思っておりましたが、
今になって復習のように丁寧に観ていくと、他にも色々な要因が絡んでいると思え、
実に興味深いです。
まず、脚本が面白い事は、間違いないでしょう。過去作品へのオマージュや
パロディにクスっとさせられ、笑う気満々で観ているうちに不意にホロリとさせられる。
ちょっと人に共有したくなる要素が散りばめられていて「今のネタ、皆気付いたかな?」
とSNSでつぶやきながら視聴するスタイルの走りとも言われています。
元ネタが分からなくても、引っ掛りのある言葉はネット検索するという癖がついている
現代人。スマホ普及率28.2%といわれる2013年より、今に よりフィットした
作品とも言えるのではないでしょうか。
私も、当時は分からずスルーしていたジェームス・ブラウンのマントショーを調べました。
「わがるヤヅだけ、わがればいい」…。
劇中の海女仲間である花巻さんの決め台詞ですが、まさにこのメルマガが
そんな状態になっていますね。スミマセン…。
脇役のキャラクターが立っていたことも魅力のひとつだと思います。
主人公を見守る優しい大人、一緒に頑張る仲間、ライバルといった、あくまで脇に
徹した役柄だけでなく、その人にスポットを当てたアナザーストーリーを観てみたくなるような
強い個性を持った人達がわんさと出てきます。
当時の私の推しは、前出の花巻さんと吉田副駅長でした。洋と和のエンタメオタクの血を感じたから。
あと、潜水土木課の先生 いっそん。そして現在の推しの野間口徹さんも出ていました。
先週の村井のメルマガにもありましたが、推しがいるってハリが出ますよね。推し活の先取り…。
再放送ならではの、「あの人がこんな役で」という点も面白いところですね。
小泉今日子さん演じる主人公の母の若い頃を有村架純さんが演じていることなど。
主人公の母親、ひいては祖母の物語も描いている為、幅広い世代が
共感できる部分があるというのも強みでしょう。
3世代の物語…。2021年の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』ではないかっ!
ここでも先取りしていたとは、恐るべし。
家族の物語とは、コンテンツとして強いもので、『VIVANT』もそうでした。
最終回前日の番組で三谷幸喜さんが「日曜劇場は基本はホームドラマ。
最終回は家族がテーマになるような気がする」とおっしゃっていた事には流石と思いました。
話は「あまちゃん』に戻って、朝ドラお得意の主人公の成長物語という側面にプラスして
広い世代を巻き込んでいる訳ですが、母の青春時代である80年代がブームであることも
今、楽しく観る事が出来る要因のひとつではないでしょうか。
赤いダブルラジカセ、実在のアイドル達、なめ猫 etc.
実際に懐かしいと感じる世代+レトロブームの渦中にいるZ世代の若者がみても
楽しめる作品だと思うのですが、残念ながらZ世代にも受けているという
具体的なデータは探せませんでした。今回の再放送はBSのみで、NHKプラスでの
配信はありません。配信番組になっていたら1話15分という手軽さも手伝って
今の若者にも受けたと思われるのですが、実際のところどうなんでしょうね。
それでも、昔観たのに、ストーリーを知っているのに、これ程SNSを賑わす作品は
無いのではないでしょうか。いや、ストーリーを知っているから、かえって染みる!
キョンキョンの、薬師丸ひろ子のセリフが染みまくる…。(敢えての当時呼びです)
"あの日"が近づくにつれ胸が苦しくなったり…も。
そして、舞台や主人公が目指すものがコロコロ変わるように見えて
「地元が好き」という筋がちゃんと一本通っている。
私には何度も読み返される文学作品の域に思えます。
皆さんにも、好きな小説や映画、漫画などがあるのではないでしょうか?
もうすぐ「秋の夜長」といわれるシーズンです。実益に繋がるヒントを求めたり、
コスパ、タイパで行動の選択をしがちな昨今ですが、只々好きに、推しに浸る時間も
良いのではないでしょうか。きっと、明日の活力になると信じて。
<参考>
・『あまちゃん』から10年経っても、その壁を超える「朝ドラ」が誕生しなかった理由(木村隆志さん)
https://gendai.media/articles/-/111138?page=1/
・『あまちゃん』は、なぜ10年後の今も輝き続けるのか?(碓井広義さん)
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f28dcdb377d3c7e746ce0bff7b023c1abd6fd1e0/
<おまけ>
・80年代ヒット曲集『春子の部屋~あまちゃん 80’s HITS~』(ソニーミュージック)
https://www.sonymusic.co.jp/artist/KankuroKudoKanshuu/discography/MHCL-2324/
編集後記
再放送の朝ドラだけでなく、新作として放送中の『らんまん』も楽しく観ています。
実在の植物学者 牧野富太郎の人生をモデルとしたオリジナルストーリーで、
舞台となる時代は幕末から明治、そして激動の大正・昭和なのですが、
こちらには現代のビジネスのヒントになるようなエピソードも盛り込まれています。
私は主人公の妻の寿恵子さん推しです。もはや こちらが主人公ではないかという回も。
借金取りを追い返すにどころかファンにしてしまったり、まだまだ田舎だった渋谷を
自ら歩き観察し、話を聴きまくり、可能性を察知し、その地の特性を生かした商売で成功を収めたり。
ただただ献身的に夫を支えるのではなく、外助の功とでも言うのか、
一緒に冒険するという気概で自分の得意を活かして駆け上がっていくところが実に痛快です。
寿恵子さんは元々オタク気質の持ち主なので、推しの対象が夫と考えると、
夫の研究を世に出す為なら何だってやるというのは自然な行動なのでしょう。
今回のメルマガは放送研修部出身者っぽくテレビドラマを論じてみようと書き始めたのですが、
期せずして「推し活」が真のテーマになりましたね(笑)
それでは、次回もお楽しみに!
稲村 祥子