シンカメールマガジン
『 真価と進化 』

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2023.3.22号 VOL.178
倍速視聴は得なのか損なのか

こんにちは。株式会社シンカの稲村と申します。

東京では、間もなく桜が満開。公園などでは4年ぶりに宴会解禁ということで、
お花見の予定がある方も多いと思います。自宅の二駅先くらいの場所に
千本桜の遊歩道があり、週末に散歩に行こうと毎年計画を立てるのですが、
それを阻むものがあります。花粉症とレコーダーに溜った録画番組整理…。

花粉症はマスクや薬で抑えるとして、テレビっ子の私にとって、番組改編期に
録画番組の整理が出来ず、新番組を録画する容量がなくなってしまうのは大問題で、
会社で期〆に資料の整理してストレージやキャビネットを空けるのと同じくらい重要。
そもそも観たいから録画した訳なので、基本的には観てから削除したいものです。
そんな時、倍速視聴で時間を節約しようかという考えが頭をよぎることがあります。
今回は、この倍速視聴に関するお話です。

それでは、『 真価と進化 2023.3.22号』、最後までお付き合いください。



倍速視聴は得なのか損なのか


倍速視聴とは、テレビや配信映像の元々の速度を1.3倍、1.5倍、はたまた2倍の
スピードで視聴する事ですが、皆さんは普段からされていますでしょうか?
私は、どうも馴染めません。

大きな理由は、倍速視聴は、私がよく見るジャンルである「ドラマ」や「お笑い」の
ベストパフォーマンスを享受できない気がするからです。
「セリフの行間」「情緒」や「間」が重要な映像作品が、キュっと時間を縮められたら
作り手が意図していたのとは伝わり方が違ってしまうのではないかと。
更に、作った方に対して後ろめたい気持ちにもなるので、余計に楽しめない…。
倍速で視聴するくらいなら、いっそ見ないと、泣く泣く削除する番組も多々あります。

また、たまに倍速視聴してみると、集中しなければ聞き取り難いので、
洗濯物を畳みながらといった"ながら作業"がし難く、かえって
タイムパフォーマンスが低いのではないかと感じることもあります。

普段そんなことを何となく考えていたのですが、ある番組で倍速視聴の
特集が組まれていました。1月30日放送のNHK『あさイチ』です。
主観や感情論ではなく、調査や検証結果を添えて、学術的に紹介されていました。

お笑いネタを等速と1.5倍速で見てもらい、どちらが面白かったかを問う調査では、
等速が10人、1.5倍速が2人という結果でした。
1.5倍速の間延び間の無さやコミカルな動きも面白かったが、
等速では、より内容の面白さが味わえたという感想に なるほどと思いました。

芝浦工業大学客員准教授の駒澤真人さんによる自律神経にかかわる解説もありました。
交感神経と副交感神経のバランスをリアルタイムで見られるという装置をつかった検証では、
等速の映像を見た時には、副交感神経が優位になってリラックスしている傾向がみられ、
2倍速だと、交感神経のほうが優位になってストレスがかかった状態がみられたという結果でした。

早稲田大学教授の枝川義邦先生によると、子供の発達への影響という側面では、
映画・ドラマには、場面で起こる表情の変化、役者の立ち振る舞いなどを
自分で疑似体験するという役割もあるので、倍速視聴ばかりしていると
「間」「表情の変化」による演技の意図を汲み取れなくなり、非言語コミュニケーション能力が
育たなくなる可能性があるとのことでした。
いわゆる「鑑賞」には、やはり倍速視聴は向かないようです。

かたや、倍速視聴の時短以外のメリットも紹介されていました。
アメリカでは、学習動画を2倍速で視聴しても成績は変わらなかった
つまり、半分の時間で同じ学習効果が得られたという研究結果があるとのこと。
ただ、2.5倍速の視聴では成績が下がったという研究結果もあるそうで、
理解が追い付かなくなったよう。自分に合った速度というものがあるらしいです。

私も、ニュースや情報番組は、倍速視聴(1.5倍速)をすることがあります。
「情報」のインプットなので、「間」などはあまり関係なく、
重ねて、アナウンサーの方の話は明瞭で倍速でも内容が聞き取りやすいからです。
コロナ禍でリモート授業に慣れてきた先生・講師の方々の話し方も
聞き取りやすく倍速視聴に適応するレベルになってきているのでしょうね。

また、倍速視聴と、集中力・作業効率の関係も紹介されていました。
奈良先端科学技術大学院大学の清川清教授によると、倍速視聴に影響を受けて
その後の行動がそれに合わせようとスピードアップする傾向があるとのこと。
運動会でよく流れる曲『天国と地獄』や『クシコス・ポスト』をきいた時のような効果でしょうか。
ただ、気楽に見て、自分にうまくマッチすれば作業効率がよくなる可能性があるとのことで、
見てストレスを感じる様な速さは宜しくないようです。

倍速視聴をし続けて、矢継ぎ早に入って来る情報を全部理解して処理しようとすると
脳疲労に陥って、物忘れの増加・判断力低下・感情コントロール低下などに
つながるということ。

「鑑賞」なのか「視聴」なのか目的に合わせて、そして倍速視聴する場合には、
自分に合ったスピードで、適度な休息をとりながら、活用するのが良さそうですね。

≪参考≫
NHK あさイチ「時短!でも体にいいの? “倍速視聴”を徹底検証」
https://www.nhk.jp/p/asaichi/ts/KV93JMQRY8/episode/te/M6J5RLZX34/


稲田豊史 (著) 映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334046002



編集後記


ネット配信される番組が充実してきましたが、私の鑑賞・視聴スタイルは
まだまだ自宅のレコーダーが中心です。
これぞ!という番組は保存版としてブルーレイ・ディスクに焼いています。
頻繁に繰り返し観ることはないのですが、配信期限や諸事情で配信されなくなる
という事が無いという安心感があります。
先日も、どこでも配信していない昔のドラマを知人に貸して、大変喜ばれました。
今の私にとっては、モノが溜まっていくというデメリットより、
持つ方がメリットを感じられるということです。

そんな中、2月にパナソニックは録画用のブルーレイ・ディスクの生産を終了しました。
それを知った時には「ダビングってそんなに古い文化になって来てるの?」と
ショックを受けたものですが、それも時代の流れ。他メーカーの生産継続を願いつつも
自分に合ったアップデート方法を楽しんで探したいと思います。
CDの量はこのところ増えていないので、出来るはず!

それでは、次回もお楽しみに!

稲村 祥子