2023.2.1号 VOL.171
傲慢と善良 『 真価と進化 2023.2.1号 』
こんにちは。株式会社シンカの横田と申します。
4か月ほど前、「Midjourney」という画像生成AIサービスを紹介しましたが、
ここ最近でさらにAIは進化を遂げ、「ChatGPT」というチャットボットが登場しました。
このチャットボットは非常に優れており、昨年11月のリリース以来世界各国で利用ユーザーを増やしています。
対人会話のように尋ねて会話形式で回答が来る点や、
実現したいことを書くだけでExcelの関数やプログラミングコードを生成してくれるなど、
使い勝手がこれまでのどのサービスよりはるかに優れていることがその理由です。
そして使いやすいだけではなく、最新AIならではの回答の精度も持ち合わせております。
アメリカの研究では、司法試験をChatGPTに回答させたところ、
7科目中2科目が平均合格率を超えるなど、専門知識も幅広くカバーしています。
また大学の記述式の期末試験でカンニングとして利用される事例が続くなど、
複雑な問いでも精度高く回答を生成できるようになってきております。
AIが仕事を奪う未来がすぐ近くに来ていること、技術革新のペースが次々早まっていることを感じる
ニュースであり、うかうかしていられないな、と思わされました。
今回はそんなAI時代が到来してもおそらく人間は悩み続けるだろう、
結婚について最近読んだ小説から考えてみたいと思います。
タイトルからすでにピンと来ている方もいらっしゃると思いますが。
それでは、『 真価と進化 2023.2.1号』、最後までお付き合いください。
※『ChatGPT』
https://openai.com/blog/chatgpt/
傲慢と善良
3か月ほど前のメルマガを覚えていらっしゃる方はおりますでしょうか。
私が初めて友人の結婚式に出席し、その際の服装やマナーについて頭を悩ませたという話でした。
その友人と先日落ち着いて話す機会があり、結婚に踏み切った理由を尋ねました。
本人は「就職したからってきっかけはあるけど、まあ勢いだよ」とあっけらかんとした態度。
人生に1度かもしれない重要な出来事が勢いというだけでよいのか、
この人と結婚すると決めきるのは基準が何かしらあるはず、と
私は納得しきれずにいました。
そんな折、近所の本屋で見かけたベストセラー作家・辻村深月の『傲慢と善良』という小説。
SNSで知人数人が好評をつぶやいていたものを目にし、何の気なしに読み始めました。
するとそこには、現代の結婚について解像度の高い言葉で描かれており、
私の考えていた決め手のヒントとなりました。
小説の主人公は架という、中小の輸入商社を経営する40歳の社長。
結婚を控えたある日、婚約者の真実が姿を消した。
その直近で真実はストーカー被害を訴えていたため、誘拐として警察に訴えるが、
状況証拠から事件性はないとされた。
では真実はストーカーと駆け落ちしたのか?今どこにいるのか?
真実の居場所を探すため、架は真実の過去と向き合っていく。
ストーリー自体は上記のようなホワイダーニットで進行していくのですが、
特に注目は、真実のストーカー候補を探すために訪れた
真実がかつて婚活で利用していた、地元の結婚相談所を営む小野里という女性から
結婚について語られる場面です。
19世紀のイギリスでの結婚は「高慢と偏見」でうまくいかなかったということからなぞらえ、
現代の結婚もとい婚活は「傲慢と善良」でうまくいかないと、小野里は語っています。
一人一人が自らの価値観に重きを置きすぎる傲慢さと、
一方で善良さがゆえに誰かに決めてもらうことが多すぎて自分がないことが、
矛盾なく一人の心に共存している状態。
自分の生活へのビジョンがないから、結婚する勇気も、独身を選び続ける意思もなく、
ただ情報が先行してドラマのようなイメージばかりで、
謙虚で高望みをしているわけではないといいながらも好みは譲れない、
合う人に巡り合えていないだけ、ピンとこないだけ、という状態。
自分に対しての無知からくる傲慢さと善良さが妨げとなっており、
結局は、自分が将来に対して何を求めているかがわかっていることが、
最も大切ということです。
就活生のときにも「就活の軸」という質問をよく尋ねられたように、
自分にとっての未来から逆算して決断の軸が明確なことが肝心で、
それが明確であればたとえ「勢い」だったとしても欲しいものは手に入ります。
友人には聞きそびれてしまいましたが、彼なりの求める生活があったはずです。
さてじゃあ、私の求める生活はどんなものなのか。
正直、私は今全然イメージができていないです。
未来の自分の生活についてどんなことを考えているのか、
いろんな人に尋ねていきたいと思いました。
※辻村深月 著『傲慢と善良』
https://publications.asahi.com/gouman/
編集後記
辻村深月先生は
『かがみの孤城』『ぼくのメジャースプーン』『冷たい校舎の時は止まる』など
小学生~高校生の葛藤や心理描写を得意としている作家さんという世間的なイメージがありますが、
直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』は幅広い年代のリアルな感情を主眼としており、
今回紹介した『傲慢と善良』も20代後半~30代が共感できる内容になっております。
テーマが幅広く描ける作家さんというのは、「次何を読めるのかな」とワクワクするため、
非常に私好みです。
社会人になってから、あまり小説を読むのに時間を費やせなくなってきていましたが、
久しぶりに著作を追いかけようかな、と思いました。
それでは、次回もお楽しみに!
横田 悟