シンカメールマガジン
『 真価と進化 』

SHINKA Mail Magazine

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2021.10.6号 VOL.107
多様性の時代だよね、で片付けられないこと

こんにちは。株式会社シンカの山内と申します。

台風一過で気持ちの良い秋晴れが続いていますね。
緊急事態宣言が明け、早速全国各地の人出も増加しているようです。

引き続きマスクの着用や消毒は徹底することになると思いますが、
少しずつ日常が戻りつつあるように感じます。

この1年半の経験を踏まえて、何が元に戻り、何が元に戻らないのか。
ずるずると何となく日常に戻るのではなく、変化を捉えて、
ニューノーマルな働き方、生き方を模索したいと思います。

それでは、『真価と進化 2021.10.6号』、最後までお付き合いください。



多様性の時代だよね、で片付けられないこと


「多様性」「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉が
企業経営や組織開発のなかでも頻繁に利用されるようになり、
人種や国籍の違いを問わず多様な人材の活用や、
LGBTQ+など多様な性のあり方への理解、障がい者雇用の促進などが進められています。

「多様な個性を尊重し認め合い、活かし合う」という概念は素晴らしい一方、
「多様性っていいよね~」では簡単に片づけられない問題もはらんでいると感じます。

①素晴らしき“多様性”時代の影にある地獄
企業勤めをしていると、「何でこんな面倒なルールがあるんだ」
「自分のやりたいことができない」と感じることや、
学生時代にも、納得のいかない校則に反発した方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

それでも、いざ、「さあご自由にどうぞ」とその柵を外されたら、
あなたは混乱しませんか?

私は、現在シンカで、時間の使い方や、注力する事業領域において
相当な自由を与えられていて、会社への不満はありませんが、
その分、自分自身に矛先を向けることが以前より増えた気がします。
私に何ができるのか、私に何の能力があるのか、私は何がしたいのか、
私は人の役に立つことができるのか…。

平成生まれで初めて直木賞を受賞した朝井リョウさんが、
インタビューのなかで、その「痛み」を表現してくださっていたので、
一部抜粋してご紹介します。

・世界から順位をつけられる苦しみを手放す代わりに、
 自分で自分を見つけなければならない終わりのない旅の始まり
・人と比べなくていい、多様性だと言われたところで、どうしたって自分を人と比べてしまう、
 他者や世間の平均値からの差異でしか自分の輪郭を感知できない人間の弱さ
・それまでは何かに置き換えることができていた自分自身の存在価値や意義をずっと問い続ける感覚
・自分で自分のことを決めていい快適さと同時に、自分で自分の意義や価値を
 見出していかなくてはならない地獄も受け取った実感
・多様性礼賛の世界の中にいながら自分を誰かと比べ続ける矛盾、
 自分で自分の意義や価値をジャッジし続ける行為は、内側から腐っていく
・自分で自分の意義や価値と向き合い続けた結果、謙虚とも違う、自己否定が積もっていってしまう。
 その先には、自分なんてこの世界に存在していたって意味がない、と思い込んでしまう『自滅』が待っている

▽インタビュー全文
https://www3.nhk.or.jp/news/special/heisei/interview/interview_07.html

「多様性」の時代において、自分の「個性」を見つけなければ
自分の存在意義がないように感じてしまう。
存在そのものが個性であると頭では理解していながら、この苦しみを
多くの方が抱えているのではないでしょうか。

②「マイノリティのなかのマイノリティ」を尊重し認め合えるか
同じく朝井リョウさんの最近の著書「正欲」からの抜粋です。

「多様性、という言葉が生んだものの一つに、おめでたさ、があると
感じています。…(中略)…想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど
嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。
そんな人たちがよく使う言葉たちです。」

人種、国籍、食文化、性的欲求の対象(男性→男性、女性→女性)といった多様性は、
私自身、嫌悪感なく理解し、尊重できる気がしています。
でもそれは、あくまで「マイノリティのなかのマジョリティ」までに留まっています。

男性の友人から、自分は男性にしか恋愛感情を持つことができないとカミングアウトされても
まっすぐ受け止められる気がしますが、たとえば、小児性愛者だと言われたら。
そして、たとえば自分の子どもがその対象になったら。
「それも多様性だよね~」と受け止めきることができるでしょうか。

③多様性という名の仮面をかぶった排除
最近、オンラインで色々な方と繋がることができるようになりましたよね。
私が所属しているコミュニティのひとつに、
「多様な会社・職業・年齢層の方に参加いただいており、違いを楽しむ。絶対に否定しない。」事を
ルールとし、心理的安全性が高い場にしようと活動しているコミュニティがあります。

所属しているくらいなので、そのルール自体を否定するつもりは一切ないことを前提として、
どうしても、大きなくくりでの同一性、共感性の柵があり、
あくまでそのなかでの多様性を楽しんでいるようにも見えるのです。

そのコミュニティ内の繋がりが強固になればなるほど、
むしろ排除されてしまっている方や、より孤独を感じてしまっている方がいるのではないか、
そんな危惧を覚えます。


繰り返しになりますが、「多様性を尊重し合おう」には全く異論はなく、
そんな自分でありたい、そんな社会でありたい、と願っています。
だからこそ、今回挙げたような葛藤や苦しみと、いかに向き合いつづけるか。
「多様性っていいよね~」という気持ちよさに逃げず、
その対極にあるものも受け止められる自分でありたいと思います。


編集後記


10月5日にAliveは開業1周年を迎えることができ、
ささやかながら、これまでお越しいただいた方々へお礼をお伝えする会を
先日、開かせていただきました。

振り返ってみると、やってみなければわからないこと、
感じられないことが多くあった1年だったように思います。

キャリア支援に尽力されているある方が、こう言っていました。
「想いだけで何かを動かせるのはユリゲラーだけだと思う」と 笑

想いを念じたり、口先だけでなく、行動しているからこそ、
思わず応援したいと感じていただける。そんな2年目にしていきたいと思います。

それでは、次回もお楽しみに!

山内 綾子