シンカメールマガジン
『 真価と進化 』

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2021.7.21号 VOL.97
宇宙への石けり

こんにちは。株式会社シンカの山内と申します。

全国的に梅雨明けし、いよいよ夏本番の気候となってまいりました。
今年は平年よりも気温が高く、暑い夏になる所が多い見込みのようです。

Alive(サステナブルラボ飯能)も、都内よりは幾分涼しいですが、
日中は少し動けば汗が止まらない状況になってきました。

「エアコンは置かない!」と決めていますので、
温暖化の影響を身体でひしひしと感じながら、
エアコンに頼らない「涼」を模索していきたいと思います。

それでは、『 真価と進化 2021.07.21号』、最後までお付き合いください。



宇宙への石けり

サステナブルな社会を模索していくうえで、
SDGsの「誰一人取り残さない」という原則や、
日本の近江商人の「三方良し」の精神などが取り上げられるなか、
その根底には「利他」の精神が流れているように感じていました。

ちょうど『「利他」とは何か?』という本に出会い、
読書会に参加する機会もありましたので、今回は内容を一部共有できればと思います。

さて、みなさんは「利他」をどう説明しますか?

自分より他人を優先する、自己犠牲を伴ったものという意味合いで
捉えている方も多いのではないでしょうか。
広辞苑でも「自分を犠牲にして他人に利益を与えること。 他人の幸福を願うこと。」
とあります。

本のなかでは、利他についての代表的な考え方として
下記の2つが挙げられています。

■合理的利他主義(経済学者ジャック・アタリ):利他は自分のためになる
利他主義とは、「合理的な利己主義」にほかならない。
「自分にとっての利益」を行為の動機にしているところが特徴。
利他主義は利己主義の対義語である、という伝統的な考え方を意図的に転倒させたもの。
日本にも「情けは人のためならず」ということわざがありますが、
めぐりめぐって自分にかえってくるという発想です。

■効果的利他主義(哲学者ピーター・シンガー):私にできる最大の善
私たちは、自分にできる「いちばんたくさんいいこと」をしなければならないという考え方。
最大多数の最大幸福。つまり功利主義の考え方。
幸福を徹底的に数値化し、利他の原理を共感に支配されずに、
理性にもとづいて利他を行うことを重視している。
現在直面している地球規模の危機は、共感(私たちの想像力)では
とらえられないほどの量と複雑さとなり、
相互にかつ未来にわたって影響しあっていることが背景にある。
寄付をするときに、同じ1000ドルでも、どの団体に、
どのような名目で寄付をすると、もっとも多くの善をもたらすことができるか、
事前に評価し、効率よく利他を行おうとするものです。

SDGsの掲げる2030年までに達成すべき17の目標達成も危ういなか、
地球が2個必要な暮らしを続けられるわけもなく、
喫緊のグローバルな課題を明確にし数値化することは、
共通目標をわかりやすくするうえで重要であり
上記の利他の考えにも通じるところがあると思います。

一方、数値化によって消える利他の感情についても本のなかでは言及されており、
長期的にみると、数字による管理は、数字が目的化し、人がそれに縛られ、
行為から利他が抜けおちていく事例も紹介されています。
数値化できないものまで数値化しようとする人間の欲望、
その背景には管理への欲望があるとも書かれています。

上記のような人間の特性から、利他の最大の敵は、
「特定の目的に向けて他者をコントロールすること」だと著者は述べています。

自分の正義を実行するために、社会的弱者を道具にしてしまう。
自分でやろうとしている人を遮って、自立を奪ってしまう。

他者のために何かよいことをしようとする思いが、
しばしば、その他者をコントロールし、支配することにつながっている。
善意が、むしろ壁になってしまうのです。

そこに圧倒的に欠けているものは、
「他者に対する信頼」であり、「不確実性」に開かれていることだと著者は述べています。

相手が想定外の行動をとる可能性を意識していない「安心」ではなく、
相手が想定外の行動をとるかもしれない、それによって自分が
不利益を被るかもしれないことを前提とした「信頼」。

信頼するとき、人は相手の自律性を尊重し、支配するのではなくゆだねているのです。

利他の大原則、それは、
「自分の行為の結果はコントロールできない」ということ。

「災害ユートピア」という言葉もあるように、予測不可能な状態に置かれたほうが
むしろ利他的な行動をするという事象もみられるようです。

自分では他人をコントロールはできないけれど、
だからこそ、耳を傾けることで、「他者の発見」と「自分の変化」につながる。
相手が入り込める余白をもつ「うつわ」のようなものが利他ではないか。
著者は最後、そのように利他を言語化していました。

また、読書会講師の枝廣淳子さんは、下記のように言語化されていました。

「利他の行為とは、宇宙への石けりである」

さて、みなさんなら「利他」をどう説明しますか?

(参考図書)
「利他」とは何か (集英社新書) 2021/3/17
伊藤 亜紗 (著), 中島 岳志 (著), 若松 英輔 (著), 國分 功一郎 (著), 磯崎 憲一郎 (著)


編集後記


この度の熱海市土石流について、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
又、お亡くなりになられました方々に心よりお悔やみを申し上げます。

私自身、今年すでに熱海を3回訪問していたこともあり、今回の災害は非常にショックでした。
ただ、お知り合いになった団体の方々が、
すぐにFacebookグループを立ち上げ、現場の状況、必要な支援物資、
むしろ必要ではない支援内容まで詳細に発信してくださり、
自分なりの関わり方を考える機会をいただけたことに、感謝の気持ちでいっぱいでした。

ローカルがそれぞれ自律し、ローカル同士が支え合える社会に、
私も微力ながら貢献していけたらと思います。

それでは、次回もお楽しみに!

山内 綾子