2020.09.30号 VOL.58
「闘う社労士」に聞く、新型コロナが労務管理にもたらす変化
こんにちは。株式会社シンカ代表取締役の田中です。
時間外労働上限規制、年5日の年次有給休暇、同一労働同一賃金などの対応に加え、
今般の新型コロナウイルスは、強制的にテレワークの実施、
フレックスタイム勤務、ワーケーションなどに取り組むキッカケとなりました。
今回は、中小企業に特化した「闘う社労士」こと、
スクウェア労働法務事務所代表の小林啓吾先生にご協力いただき、
新型コロナが労務管理にもたらす変化について、
私がインタビューしてまいりましたので、その内容をお届け致します。
それでは、『 真価と進化 2020.09.30号』、最後までお付き合いください。
「闘う社労士」に聞く、新型コロナが労務管理にもたらす変化
(以下、対談形式インタビュー)
田中:
本日はお時間いただき、ありがとうございます。
新型コロナウイルスの影響で、どんな相談が増えていらっしゃいますか?
小林先生:
緊急事態宣言直後は、一気にテレワークの相談が増えましたが、
最近は減ってきていますね。1つにはテレワークが定着してきたことがありますが、
「直接会わないと仕事にならない」経営方針から、出社原則に戻す企業も
出てきたことがもう1つの理由だと感じています。
田中:
テレワーク実施について、どんなアドバイスをされていますか?
小林先生:
時間管理をしっかりやる方法と、事業場外みなし労働時間制をとる方法があります。
ただし、事業場外みなし労働時間制を導入したとしても、
裁判で企業側が残業代を支払う判決を受けたケースがあって、
厳格に適用しないといけないですよ、と補足させていただいています。
これは私の意見ですが、適用者としては一定の経験を積んだ従業員まで、
経験が浅く、サポートが必要な従業員は難しいなと感じています。
田中:
なるほど。事業場外みなし労働時間制の導入も全ての解決策にはなりませんね。
最近は、出社とテレワークを組み合わせている企業様が私の身近には多いのですが、
その際に、注意すべきことは何かありますか?
小林先生:
最近は、通勤交通費を定期代分支給ではなく、通勤した分だけ実費精算に
切り替える動きがあると思います。その際、場合によっては不利益変更に
なる可能性があるため、注意が必要です。就業規則改訂の場合は説明会を開き、
従業員の7~8割の同意を得た上で届け出るようアドバイスしています。
田中:
言われてみればたしかに、そういう影響がありますね。
それでは次の質問に移りますます。最近メディアでも早期退職募集など、
厳しい話を見かけるようになりました。
残念ながら減給や賞与カット、人員整理せざるをえない状況の場合、
どんなアドバイスをされていますか?
小林先生:
整理解雇の有効性の判断傾向として次の4つの要素として
考慮されている傾向があります。
①人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の
十分な必要性に基づいていること
②解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって
解雇回避のために努力したこと
③人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、
その運用も公正であること
④解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法
について納得を得るために説明を行うこと
上記②においては従業員の賃金を減額する前に人件費以外の経費削減や
役員報酬の減額なども評価される1つの施策なので重要かと考えます。
また、希望退職者募集や場合によっては退職勧奨を行う必要性も
でてくるのではないかと思います。
田中:
厳しい時ほど、お互いに対等に努力をしなければなりませんね。
それでは、最後の質問です。
今後、労務管理の観点から、どんなことに注意しなければならないでしょうか?
小林先生:
大きくは3つあります。
1つは、同一労働同一賃金です。10月に同一労働・同一賃金で注目されている
最高裁判決がいくつか出る見込みです。それによって、同一労働・同一賃金の
判断の一つの目安が具体化することになりますので注目しています。
2つ目は、月60時間超の時間外労働で法定割増賃金率50%以上という制度が
2023年4月から中小企業にも適用されることです。支払いの問題も
さることながら、実態として時間外労働時間の削減を中小企業としても
本腰を入れて取り組まなければなりません。
3つ目は、民法改正の影響です。
いわゆる未払残業代の遡及請求可能期間が2年→3年に延長されます。
莫大な金額になりますので、企業としてはリスクが高まることになります。
また、身元保証人の欄に損害賠償金の上限額を記載することになり、
高額な極度額(上限額)を設定すると、身元保証書に署名捺印を
もらえなくなる事態が続出するのではないかと予想しています。
田中:
メディアで騒がれている以上に、大きな変化が起こっているのですね。
私も詳しくは理解できていない部分もあります。
新型コロナ感染拡大によって、労務管理も急激に変化せざるをえない状況にあります。
これを契機に、より良い方向に変化させられるよう、弊社もクライアントの
ご支援をより強化してまいります。
本日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
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●スクウェア労働法務事務所様のご紹介
https://tatakausharoushi.com/
社会保険労務士 小林 啓吾(こばやし けいご) 様
1980年 横浜市生まれ
1981年~2006年 世間の荒波に抗いながら飲み込まれて育つ
2007年 社会保険労務士試験 合格
2008年 NJKF(ニュージャパンキックボクシング連盟)
プロライセンス獲得
2014年 特定社会保険労務士試験 合格
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編集後記
現在の労働関連法は、時代錯誤だと叫ばれて久しいです。
私も会社を経営している立場で、労働関連法の制約によって、
今現在叫ばれている副業・テレワーク・ワーケーション・成果に基づく評価
などは実現不可能に思えることが多いです。
日本の総人口はここ10年間で毎年30万人ずつ減少しています。
10年間で300万人です。これは茨城県が丸ごと消滅したのと同じインパクトです。
現役世代の幸福度を高め、かつ高騰し続ける社会保障を支える生産性を
実現する社会への転換のために、労働関連法の革新を期待しましょう。
それでは、次号もお楽しみに!
田中 裕也